生産ラインの塗布工程をロボット化する際に見落としがちな注意点

最終更新日 2026年7月3日 by ooddee

はじめまして、桐山拓也と申します。
機械工学を学んだあと、電子部品メーカーの生産技術部門で11年ほど働いていました。

担当していたのは、塗布や接着、充填工程の自動化ラインの設計です。
ディスペンサーの選定からロボットの立ち上げまで、現場で何度も試行錯誤してきました。

今は独立して、製造業向けに設備選定や工程改善の情報を発信しています。
塗布工程のロボット化は、うまくいけば品質も生産性も大きく上がります。
ただし、思いつきで導入すると痛い目を見る。

私自身、最初のライン立ち上げでは想定外のトラブルに何度も足を止められました。
今日はその中でも見落とされがちな4つのポイントを、現場目線で整理していきます。

最初につまずく「ティーチングの壁」

ロボット導入の初期段階で必ずぶつかるのが、ティーチングです。
ティーチングとは、ロボットに動作の手順や位置を教え込む作業のこと。

言葉にすると単純ですが、実際は思った以上に手間がかかります。
塗布ロボットの場合、詰める項目は特に細かい。

  • ノズルの角度とアプローチ位置
  • 移動スピードと加減速のタイミング
  • 塗布の開始・終了ポイント
  • 塗布量とストローク幅

これらを一つずつ現物合わせで調整していくため、時間も経験も要ります。

さらに見落とされがちなのが、法律上の資格要件です。
産業用ロボットの教示や検査業務には、労働安全衛生法第59条と労働安全衛生規則第36条に基づく特別教育が義務付けられています。
無資格のまま作業をさせれば、事業者側が罰則の対象になりかねません。

詳しい教育内容は日本ロボット工業会「ロボットの特別教育」で確認できます。
現場に配属する担当者が決まったら、真っ先にここを見ておくべきです。

粘度変化が招く吐出量のばらつきと機種選定

塗布工程で地味に厄介なのが、液材料の粘度変化です。

エポキシ樹脂やウレタンなどの2液性樹脂は、温度によって粘度が大きく変わります。
気温が下がる冬場と、設備の熱がこもる夏場とで、同じ設定でも吐出量が微妙にズレる。
私が担当していたラインでも、季節の変わり目に塗布不良が増える時期がありました。

原因の多くは、材料の温度管理不足か、機種そのものが対応粘度レンジを外れていたことです。
糸引きや液垂れが起きたときは、まず粘度と計量方式の相性を疑ったほうがいい。

機種選定の段階で、対応可能な粘度レンジや吐出方式を確認しておくと、後々のトラブルをかなり減らせます。
ディスペンサーの塗布性能や対応粘度をまとめた製品ページのような、メーカーが公開している一次情報を見ながら比較検討するのがおすすめです。

段取り替えとメンテナンス性が稼働率を左右する

多品種少量生産のラインでは、製品ごとの段取り替えが頻繁に発生します。
プログラムの切り替えや治具の交換に時間がかかると、ロボット導入のメリットが薄れてしまう。

加えて見落としがちなのが、日々のメンテナンスです。

  • モーターや減速機の経年劣化
  • センサー類の断線・誤作動
  • ノズルの目詰まりや摩耗
  • 治具交換にかかる時間

定期点検を怠ると、ある日突然センサーエラーで停止し、生産計画そのものが崩れます。
私は「導入して終わり」ではなく、「導入してからが本番」だと考えています。

安全対策とSIer選びを後回しにしない

ロボットの可動範囲には、柵や囲い、光線式安全装置の設置、監視人の配置などが労働安全衛生規則で義務付けられています。
厚生労働省の施行通達にも、教示作業時の安全措置や運転中の危険防止措置が細かく定められているので、一度目を通しておくと安心です。

もう一つ、意外と語られないのがSIer(システムインテグレーター)選びです。
ロボットの導入台数は増えているのに、現場を知るSIerは慢性的に不足しています。
どのメーカー・機種を選ぶかと同じくらい、どのSIerと組むかが導入の成否を左右すると、私は現場で何度も感じてきました。

まとめ

塗布工程のロボット化は、ティーチングの壁、粘度変化への対応、段取り替えとメンテナンス、安全対策とSIer選び、この4つを押さえるだけで失敗の確率がぐっと下がります。

どれも地味な話です。
ただ、地味な部分をおろそかにした現場ほど、あとで大きな手戻りに苦しんでいました。

導入を検討している方は、機種選定と同時に、この4つをチェックリストとして手元に置いておいてください。