「高粘度材料の塗布がうまくいかない…」「グリスやシリコーンを精密に塗布したいが、最適な方法がわからない」。製造現場でこのような課題に頭を悩ませていませんか?
こんにちは。私は普段、企業の技術的な強みをWebサイト上でいかに魅力的に伝え、ビジネスに繋げるかというコンサルティングを行っています。その中で、多くの製造業のクライアント様から「高粘度材料の精密塗布」に関するご相談をいただきます。
電子部品の小型化、自動車部品の高性能化が進む現代のものづくりにおいて、グリスやシリコーンといった高粘度材料を、いかに正確に、効率よく塗布するかは、製品の品質を左右する重要な要素です。しかし、これらの材料は粘り気が強く、扱いが非常に難しいという特性があります。
この記事では、そうした課題を解決する鍵となる「工業用ディスペンサー」に焦点を当て、特に高粘度材料であるグリスとシリコーンの塗布に最適なソリューションを、専門的な視点から徹底解説します。この記事を最後までお読みいただくことで、以下のことが分かります。
- なぜ高粘度材料の塗布が難しいのか、その根本原因
- グリスとシリコーン、それぞれの特性と最適な用途
- 自社の課題に合った工業用ディスペンサーの具体的な選定方法
- 最新のディスペンサー技術と主要メーカーの動向
もう、高粘度材料の扱いに悩む必要はありません。この記事が、皆様の生産性向上と品質改善の一助となれば幸いです。
工業用ディスペンサーとは?高粘度材料対応の必要性
まずは基本から押さえましょう。工業用ディスペンサーがどのような役割を担い、なぜ高粘度材料への対応が求められているのかを解説します。
ディスペンサーの役割と重要性
工業用ディスペンサーとは、液体材料を「正確な量」で「狙った位置」に「安定して」吐出するための装置です。接着剤、オイル、インク、そして本記事のテーマであるグリスやシリコーンなど、製造現場で使われる多種多様な液体材料の塗布・充填に用いられます。
手作業での塗布では、作業者による量のばらつきや位置ずれが発生しやすく、品質の不安定化や材料の無駄につながります。ディスペンサーは、こうした課題を解決し、生産ラインの自動化と品質の均一化に不可欠な存在です。
特に、グリスやシリコーンのような高粘度材料は、自重で流れにくく、ポンプで単純に押し出すだけでは精密な制御が困難です。糸引きや液ダレを起こしやすく、微量塗布の難易度はさらに高まります。そのため、高粘度材料を扱う現場では、その特性に特化したディスペンサーの選定が極めて重要になるのです。
高粘度材料対応ディスペンサーの市場動向
近年、製品の高性能化・小型化に伴い、高粘度材料の精密塗布ニーズはますます高まっています。こうした背景から、高粘度対応ディスペンサー市場も活況を呈しており、各メーカーが独自の技術で競い合っています。
産業用製品メーカーの比較サイト「Metoree」が発表した2025年12月の注目ランキングによると、高粘度ディスペンサー分野では、特定の技術に強みを持つ専門メーカーが上位を占めています。
表1:高粘度ディスペンサーメーカー 注目ランキング(2025年12月)
| 順位 | メーカー名 | クリックシェア |
|---|---|---|
| 1 | 株式会社サンエイテック | 52.9% |
| 2 | エース技研株式会社 | 17.6% |
| 3 | 武蔵エンジニアリング株式会社 | 11.8% |
| 4 | 株式会社エスティフロー | 5.9% |
| 5 | 株式会社オートニクス | 5.9% |
| 6 | イーサーコーポレーションジャパン | 5.9% |
出典: Metoree 高粘度ディスペンサー メーカー8社 注目ランキング【2025年】
ランキング1位の株式会社サンエイテックは、容積移送式という高精度な吐出方式に強みを持ち、市場の半数以上のシェアを獲得しています。このように、国内メーカーは独自の技術力で、世界の製造業を支えているのです。
グリスの特性と工業用途
次に、代表的な高粘度材料である「グリス」について、その特性から見ていきましょう。
グリスとは何か
グリス(Grease)は、基油(ベースオイル)に増ちょう剤を分散させ、さらに酸化防止剤などの添加剤を加えて半固体状にした潤滑剤です。一般的に、オイルが使用できない箇所や、長期間の潤滑が必要な箇所に使用されます。
潤滑油(オイル)が「点」で潤滑するのに対し、グリスは「面」で潤滑面に留まり続けることができるのが最大の特徴です。粘度が高いため、流れ落ちにくく、密封性が高いという利点もあります。
グリスの種類と特性
グリスは、使用される基油や増ちょう剤、添加剤の種類によって、様々な種類に分類されます。それぞれ耐熱性、耐水性、潤滑性などの特性が異なります。
表2:代表的なグリスの種類と特性
| グリス種類 | 温度範囲(目安) | 主な特性 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| リチウム石けんグリス | -20℃~130℃ | 万能性が高く、最も一般的 | 自動車、建設機械、一般産業機械 |
| カルシウム石けんグリス | -10℃~70℃ | 耐水性に優れる | ポンプの軸受など、水がかかる箇所 |
| ウレアグリス | -30℃~200℃ | 耐熱性、酸化安定性に優れる | 製鉄所の連続鋳造設備、自動車の電装部品 |
| シリコーングリス | -40℃~200℃ | 温度特性、耐酸化性、ゴム・樹脂への影響が少ない | 自動車部品、家電製品、プラスチック部品 |
グリスの工業用途
その優れた潤滑性から、グリスは工業分野のあらゆる場面で活躍しています。
- 自動車分野:エンジン部品、ベアリング、ドアヒンジ、パワーウィンドウなど
- 建設機械:油圧ショベルやクレーンの軸受、摺動部
- 産業機械:各種モーターのベアリング、ロボットの関節部
- 電子機器:プリンターやカメラの可動部、スマートフォンの防水シール
グリス塗布に適したディスペンサー
ペースト状であるグリスの塗布には、高い圧力をかけて材料を押し出す能力が求められます。特に、微小な箇所へ定量塗布する場合、材料を安定して供給し、液ダレなく正確に塗布する技術が必要です。
このため、グリス塗布には「容積計量方式」や「スクリュー方式」といった、粘度の影響を受けにくい吐出方式を持つディスペンサーが適しています。
シリコーンの特性と工業用途
もう一つの代表的な高粘度材料「シリコーン」。その多様な特性と用途について掘り下げていきます。
シリコーンオイルの優れた特性
シリコーンは、ケイ素(Si)を主骨格とする合成高分子化合物の総称です。その中でも「シリコーンオイル」は、シリコーングリスや各種コンパウンドのベースとなり、その優れた特性の源となっています。
シリコーンの特性について、業界をリードする信越シリコーンのウェブサイトでは、その詳細なデータが公開されており、非常に参考になります。特に注目すべきは以下の3点です。
- 優れた耐熱・耐寒性:一般的なジメチルシリコーンオイルでも-50℃から150℃まで安定しており、メチルフェニルシリコーンオイルに至っては250℃の高温環境でも長時間使用可能です。
- 卓越した粘度安定性:温度が変化しても粘度がほとんど変わりません。これは、鉱油や他の合成油にはない大きな特長で、精密機器の計器油などに最適です。
- 高い化学的安定性:化学的に非常に不活性で、金属を腐食させることがなく、多くの薬品に対しても安定しています。
この他にも、低い表面張力、優れた撥水性、高い電気絶縁性など、シリコーンは他の材料にはないユニークな特性を数多く持っています。
シリコーングリースの特性
シリコーンオイルを基油として作られるシリコーングリスは、その優れた特性を受け継いでいます。
- 幅広い温度範囲:-40℃から200℃といった広い温度範囲で使用できます。
- ゴム・プラスチックへの影響が少ない:石油系グリスがゴムやプラスチックを膨潤させることがあるのに対し、シリコーングリスはその影響が非常に少ないため、樹脂部品の潤滑に安心して使用できます。
- 優れた電気絶縁性:高い電気絶縁性を持ち、コネクタやスイッチなどの電気接点の保護・潤滑にも適しています。
シリコーンの工業用途
シリコーンは、その多様な形態(オイル、グリス、ゴム、レジンなど)とユニークな特性を活かし、非常に幅広い分野で利用されています。
- 電子機器:CPUの熱伝導グリス、LEDの封止材、スマートフォンの防水シール剤
- 自動車:エンジン周りのガスケット、点火プラグのブーツ、ブレーキ部品の潤滑
- 医療:カテーテルや注射筒の潤滑コーティング、人工関節の部材
- 化粧品:ファンデーションや日焼け止めの基材
シリコーン塗布に適したディスペンサー
シリコーンは、低粘度のオイル状のものから、フィラーを配合した高粘度のペースト状のものまで、粘度の幅が非常に広い材料です。そのため、使用するシリコーンの粘度や特性に合わせてディスペンサーを選定する必要があります。
特に、硬化前の液状シリコーンを精密に塗布する場合、非接触で液を飛ばす「ジェットディスペンサー」が有効です。ワークとの接触がないため、高速な塗布が可能で、凹凸のある基板などにも正確に塗布できます。
グリスとシリコーンの違い:最適な選択基準
ここまでグリスとシリコーン、それぞれの特性を見てきました。では、この2つをどのように使い分ければよいのでしょうか。比較表を元に、最適な選択基準を解説します。
材料特性の比較
表3:グリスとシリコーンの特性比較
| 特性 | 一般的なグリス(鉱油系) | シリコーングリス |
|---|---|---|
| 主成分 | 鉱油 + 金属石けん | シリコーンオイル + 増ちょう剤 |
| 潤滑対象 | 金属同士の潤滑に優れる | ゴム・プラスチックへの影響が少ない |
| 温度範囲 | 比較的狭い(例: -20℃~130℃) | 非常に広い(例: -40℃~200℃) |
| 電気絶縁性 | 低い | 高い |
| 価格 | 比較的安価 | 比較的高価 |
用途別の選択基準
上記の特性の違いから、以下のような使い分けが考えられます。
- 金属同士の摺動部で、高い荷重がかかる場合 → グリスが適しています。
- ゴムやプラスチック部品を潤滑したい場合 → シリコーングリスが最適です。
- 高温または低温環境下で使用する場合 → 温度特性に優れたシリコーングリスが有利です。
- 電気的な絶縁が必要な箇所の潤滑・保護 → シリコーングリスを選定します。
- コストを最優先したい場合 → 汎用的なグリスが選択肢となります。
最終的には、使用環境、対象物の材質、コストなど、総合的な観点から判断することが重要です。
高粘度材料の塗布技術:接触式 vs 非接触式
ディスペンサーによる塗布方法は、大きく「接触式」と「非接触式」の2つに分けられます。それぞれのメリット・デメリットを理解し、最適な方法を選択しましょう。
接触式塗布の特徴
接触式は、ディスペンサーの先端(ノズル)をワークに直接接触させて材料を塗布する方法です。古くからある基本的な方法で、手作業のイメージに近いと言えます。
- メリット:ノズルが直接位置決めするため、狙った場所に正確に塗布できます。
- デメリット:Z軸(高さ方向)の制御が必要で、凹凸のあるワークには不向きです。また、塗布タクト(作業時間)が長くなる傾向があります。
非接触式塗布の特徴
非接触式は、ノズルをワークから離した状態で、材料を飛ばして塗布する方法です。「ジェットディスペンサー」が代表的です。
- メリット:高速な塗布が可能で、生産タクトを大幅に短縮できます。Z軸の上下動が不要なため、凹凸のあるワークや、狭い隙間への塗布も得意です。
- デメリット:材料の粘度や表面張力によっては、液が広がったり、サテライト(主液滴の周りにできる微小な液滴)が発生したりすることがあります。
表4:接触式と非接触式の比較
| 項目 | 接触式 | 非接触式 |
|---|---|---|
| 塗布精度 | ◎(位置精度が高い) | 〇(高速塗布が可能) |
| 作業速度 | △(遅い) | ◎(速い) |
| 凹凸対応 | ×(困難) | ◎(容易) |
| メンテナンス | 〇(ノズル摩耗に注意) | 〇(ノズル詰まりに注意) |
最新の高粘度対応塗布技術
近年では、従来は困難とされていた高粘度材料の非接触塗布技術が大きく進化しています。例えば、前述のサンエイテック社は、独自のバルブ技術により、従来は難しかった中~高粘度液剤を飛散なくスプレー塗布する「高粘度対応スプレーバルブ」や、ハンマー構造で強力に材料を射出する「高粘度対応ジェットディスペンサー」などを開発しています。これにより、300,000mPa·sといった超高粘度の材料でも、高速・高精度な非接触塗布が可能になりつつあります。
ディスペンサー選定ガイド:粘度・対象物・予算
最後に、自社の課題を解決するための、実践的なディスペンサー選定ガイドをご紹介します。「粘度」「対象物」「予算」の3つの軸で考えましょう。
粘度による選定基準
まずは、使用する液体材料の「粘度」が最も重要な選定基準となります。
表5:粘度別ディスペンサー選定ガイド(目安)
| 粘度範囲(mPa·s) | 液体の例 | 推奨ディスペンサー方式 |
|---|---|---|
| ~1,000 | 水、低粘度接着剤 | チュービング方式、エアパルス方式 |
| 1,000~100,000 | 接着剤、グリス、シリコーン | エアパルス方式、容積計量方式、スクリュー方式 |
| 100,000~ | 高粘度グリス、ペースト状材料 | 容積計量方式、スクリュー方式、プランジャー方式 |
これはあくまで一般的な目安です。実際の選定にあたっては、必ずメーカーに相談し、塗布テストを行うことをお勧めします。
特に、超高粘度材料(100万mPa·s以上)への対応を検討している場合、プランジャポンプ式のP-FLOWシリーズ Hタイプのような、高粘度ディスペンサーの導入を検討する価値があります。このような高粘度対応ディスペンサーは、1~1,050,000mPa·sという広い粘度範囲に対応し、高フィラー入材料にも対応できるため、より多くのアプリケーションに対応可能です。
対象物による選定基準
次に、何を対象に塗布するかを考えます。
- 平坦な基板やフィルムに均一に塗布したい → ロールコーターやスプレーコーターなどの「面」で塗布する装置が適しています。
- 特定の箇所に点や線で塗布したい → ディスペンサーが最適です。
- 対象物に凹凸がある、または狭い隙間に塗布したい → 非接触式のジェットディスペンサーが威力を発揮します。
予算による選定基準
もちろん、予算も重要な要素です。
- 手作業の置き換えで、まずは自動化を試したい → 数十万円から導入可能な卓上型ロボットとエアパルス式ディスペンサーの組み合わせが一般的です。
- 生産ラインに組み込み、高速・高精度な塗布を実現したい → 数百万円以上の投資が必要になる場合もありますが、生産性向上による費用対効果が期待できます。
ディスペンサーは、安価なものから高価なものまで様々ですが、単体の価格だけでなく、周辺機器(ロボット、コンプレッサーなど)や、設置・調整にかかる費用も考慮して、総合的な投資計画を立てることが重要です。
まとめ
本記事では、「高粘度材料に強い工業用ディスペンサー」をテーマに、グリスとシリコーンの特性から、最新の塗布技術、そして実践的なディスペンサーの選定方法までを網羅的に解説しました。
最後に、重要なポイントを振り返ります。
- 材料特性の理解が第一歩:グリスとシリコーンは似て非なるものです。それぞれの特性を正しく理解し、用途に合った材料を選ぶことが、最適な塗布への近道です。
- 塗布方式の選択が鍵:「接触式」と「非接触式」、それぞれのメリット・デメリットを把握し、ワークの形状や求められる生産タクトに応じて最適な方式を選びましょう。
- ディスペンサーは「システム」で考える:ディスペンサー単体だけでなく、材料の供給方法から塗布後の硬化プロセスまで、トータルなシステムとして最適化を図ることが、真の生産性向上につながります。
高粘度材料の精密塗布は、決して簡単な課題ではありません。しかし、正しい知識を持ち、信頼できるパートナー(メーカーや専門商社)と共に課題に取り組むことで、必ず解決の道は見つかります。
この記事が、皆様の製品品質と生産性の向上に、少しでもお役立ていただけたなら、これ以上の喜びはありません。